AppleがMacラインナップをIntel MacからApple Siliconへと移行していく中で唯一Apple Siliconへの移行(置き換え)が完了していないMac Proであるが、これにはMac Proが持つ特殊性が大きく関係している気がしている。
Mac ProはMacのラインナップの中でも極めて特殊で、単に「Macの中で最も性能が高いハイエンド機」というだけではなく、現行Macの中では唯一公式にRAMやビデオカードなどの換装が可能という強みを持つ拡張性に優れたMacだ。
Mac Proは(サポートしているハードウェアならば)自由にビデオカードなどのコンポーネントを交換でき、自分に合わせたMacを構築するというMacの中では唯一無二の価値を生み出しており、そのユーザーも他のカジュアルなMacユーザーと違ってエンスージアストという向きが強い。
だからこそ2013年のいわゆる「ゴミ箱Mac Pro(Trach Can Mac Pro)」は拡張性の低さからユーザーから敬遠され、性能の陳腐化も早く、Appleは2019年のMac Proで2013年のMac Proのコンセプトから決別し、従来の拡張性を重視した方向性に戻している(なお、僕はMac Pro 2013のコンセプトやデザインは割と好きである)。
そんなMac ProがApple Siliconへと移行していく上で問題となるのが「性能」、そして前述の「拡張性」なのではないかと個人的に考えている。
性能については様々な憶測が飛び交っているが、Apple M1 Ultra搭載のMac Studioを凌ぐ性能になるのは間違いなく、「Apple M1 Ultraを二つ搭載」と予想しているメディアもある。
しかし仮にApple M1 Ultraを二つ搭載したとしても最大メモリ容量は256GB、四つ搭載したとしても最大512GBであり、現行のMac Proが搭載可能なメモリ(1.5TB)には程遠い。
Intelチップの現行Mac ProとApple Silicon Macではメモリ周りの仕様が大幅に違うので単純に最大容量での比較はできないが、少なくともユーザーに訴求する上で256GBや512GBのメモリというのはインパクトが弱いだろう。
CPUやGPU性能はともかくとして、Apple Silicon Mac Proのメモリ容量をどうするつもりなのか、個人的に気になっている。
次に問題となるのが拡張性で、現在展開されているApple Silicon Macはどの製品も例外なくユーザーで内部コンポーネントの増設や交換はできない。
Mac Proの強みはユーザーが自由にパーツを換装できることであり、だからこそ長年のMacエンスージアストにも愛されてきたが、そのMac Proが「一切のパーツの換装はできない」となってしまうとMac Proは拡張性という大きな強みを失ってしまい、エンスージアストであるユーザーも離れてしまうだろう。
少し前にMacRumors ForumsのMac Proフォーラムに「あなたはApple Silicon Mac Proがパーツの換装が不可能な場合どうするか?」というスレッドがあったのだが、大半のユーザーの答えは「Apple(Mac)から離れる(Leave from Apple)」というものだった。ユーザーがMac Proに拡張性を求めていることの証左と言えるだろう。
Mac Studioがリリースされた時、Mac StudioのSSDがスロット式であることが判明し「SSDの増設ができるのではないか?(実際にはできない)」、「次期Mac Proもこのようなモジュール式の構造になるのではないか?」と話題になったが、Apple Silicon Mac ProではSSDだけではなく、メモリやGPUの交換も可能にしないとユーザーは納得しないのではないかと思う。
ただ、SoCであるApple Silicon MacでどうやってメモリやGPUを交換するのか、という問題もあるため、SSDの増設・交換はスロット式で対応、GPUは外付けの(eGPUのような)ソリューションを用意、メモリの増設・交換はできない、という折衷案を採用する可能性もある。
Appleも次期Mac Proをどうするのかについて悩んでいるようで、従来のMac Proならばその年のWWDCでチラ見せ(Sneak Peek)、あるいは発表してその年のQ4(秋〜冬)に発売するというサイクルだったのだが、2022年にApple Silicon Mac Proが登場するという大半の予想にも関わらず、2022年のWWDCではApple Silicon Mac Proのチラ見せや発表は全く行われなかった。
僕はApple Silicon Mac Proは少々大袈裟な言い方ではあるが、Appleがこれまで生み出してきた製品の中でも最大級の挑戦となるのではないかと感じる。
Appleがどのような方法・技術を持ってMac Proの拡張性、ユーザーの特殊性という課題に応えるのか期待したい。