アニメ「SHIROBAKO」レビュー

この1週間ずっとアニメ「SHIROBAKO」という作品をAmazonプライムdアニメチャンネルで見ていたのだが、全24話の視聴を終えた。

僕はオタクでありながらテレビは持っておらず、ストリーミングサービスでも気になったアニメや過去に見た作品をBGM代わりに見る程度で、ぶっちゃけるとここ数年はアニメを熱心に見ていない。

しかも全24話の2クール作品となると完走した作品は数えるほどしかないのだが、この「SHIROBAKO」という作品は時間を忘れて見れた上に近年稀に見る完成度が高い作品だった。

僕がこれまでに見たアニメで特に好きな作品を挙げろと言われると10作品にも満たないのだが、その中に新たにこの「SHIROBAKO」も加わった。

制作はP.A.WORKSというスタジオで、僕はこのスタジオの作品だと「TARI TARI」というアニメがBlu-ray全巻を買ったほど大好きなのだが、本作「SHIROBAKO」も負けず劣らずの素晴らしいアニメだった。

2020年には劇場版も予定されているようなので今から楽しみだ。

元々dアニメチャンネルは以前から契約していたが、本作を視聴しようと思ったのはアメリカの日本アニメ配給会社「Crunchyroll」のTwitterの以下のツイートがきっかけである。

「キャラかわいいな〜、見てみよう」という軽い気持ちで視聴を開始したが、いい意味で見事に期待を裏切られた。

ちなみになんでCrunchyrollなんていう日本では馴染みのないアカウントをフォローしているのかと言うと、単純に日本国内では手に入らない海外のアニメ情報・アニメファンの動向を把握できるからである。

アニメを熱心に見る方ではなくとも、国外でのトレンドアニメを把握するのは面白く、日本ではあまり話題に上らなかったアニメが突如人気を博すこともあるためCrunchyrollは公式サイトはIPが弾かれてアクセスできないが、Twitterのアカウントは有用な情報源としてフォローしている。

あらすじ

本作「SHIROBAKO」はアニメとしては極めて異色な「アニメ制作現場を描いたアニメ」作品である。

高校でアニメ同好会に所属していた宮森あおい・安原絵麻・坂木しずか・藤堂美沙・今井みどりの5人は「将来全員で一緒にアニメ作品を作る」という夢を誓い、アニメ制作への道へと進む。

数年後、宮森あおいは武蔵野アニメーション(通称ムサニ)というアニメ会社で制作進行として、安原絵麻は同じく武蔵野アニメーションで原画として働き、坂木しずかは新人声優としてバイトをしながら声優の仕事を探し、藤堂美沙は3DCG制作会社でモデリングの仕事、今井みどりは大学生で脚本家志望としての道を歩んでいた。

しかしアニメを作るという夢を持ったそれぞれ5人は、必ずしも希望通りの仕事をしているわけではなかったり、希望通りアニメ制作の仕事に就いても将来の自分に不安を感じたりしており、決して順風満帆ではない。

今作はそんなアニメ制作への道に歩む5人がそれぞれ悩み・葛藤・将来への不安を抱えながら、自分の夢に向かってひた進む姿を宮森あおいをメインに据えて描いた群像劇。

SHIROBAKOのここが素晴らしかった

リアリティ

アニメ制作現場を描いたアニメというと、どうしても7月に起きた事件のことを思い出してしまうがそれは一旦忘れよう。

僕が24話2クールという長編と言えるアニメを1週間で完走できたのは、まず本作のテンポの良さとキャラクターの魅力、そしてリアリティ溢れる描写によるところが大きい。

アニメファンの間ではアニメ制作現場の過酷さは結構有名だし、実際には「SHIROBAKO」で描かれている以上に厳しい業界であると思う。

宮森の務める制作進行はアニメ業界の中でも特に大変で、現実では過去に自殺者も出ているほどだ。

ただ、実際の業界の厳しさは描かれていないかもしれないが、チームで物作りをする上での意見の衝突・スケジュールの狂いによるドタバタ・夢を追う主人公たちの葛藤などを取り繕うことなく真っ正面から描写しているため、綺麗事ではない生の人間ドラマの迫力というのは十分に伝わってきた。

僕のように歳を食うと剣と魔法のファンタジーを描いた異世界アニメやキャラクターたちのバトルを描いたアニメよりも、こういった作品の方が身近に感じられて心に刺さるのだ。

もちろん、そういったファンタジー異世界アニメやバトルアニメが悪いというわけでは全くないし、歳を食ってそういうアニメを見ることがいけないというわけでもない。

しかし、やはりこういう現実社会での登場人物たちの頑張りを描いた作品の方が胸に響きやすいのだ。

個性豊かなキャラクター

本作にはメインとなる5人以外にも多くの人物がモブではなくメインキャラクターとして出てくる。

それは監督であったり、プロデューサーであったり、原画マンであったり、作画監督であったり、音響であったり、十人十色だ。

それらの登場人物一人一人がメインとなる5人にも負けないくらいの存在感を出していて、そういった数え切れないほどの人たちがアニメ制作に関わっているという現実をおろそかにせず、きちんと描写しているのが本作のすごいところでもある。

中には最初イライラするキャラがいたりして「むかつくなぁ」と不快感を感じてしまう場合もあるのだが、そういった人物にもそれぞれの事情や葛藤・持ち味の良さがあって、バックグラウンドも描かれるので最終的にはむかつきが愛着に変わるところも素晴らしいと思う。

アニメ制作というクリエイティブな業界を描いた作品だからこそ可能な「多くの人が一丸となって最終的に一つの作品が完成する」という過程を描く上で、こういった登場人物たちの個性の豊かさや、その心理描写は欠かせないだろう。

それを余すところなくそれぞれの人物にスポットを当てているのがすごい。

葛藤を乗り越えた先のカタルシス

最初は自分の仕事に自信を持てなかった宮森あおいや安原絵麻が、失敗や衝突・葛藤を経験して成長していく姿、声優の仕事がなかなか来ずオーディションにも落ちる坂木しずかが声優としてスポットが当てられていく過程、希望通りの仕事ができないことに悩む藤堂美沙が自分のやりたいことをするために転職する姿、脚本家志望だが道が見えない今井みどりに突如降ってきたチャンス。

最初は「なんとなくこの仕事を続けている」、「将来が見えない」と悩み葛藤していた5人がやりたいことを見つけて、最後は一丸となってアニメ制作に取り掛かり、困難を乗り越え、自分の夢を確かなものにしていくという着地は素晴らしいカタルシスがあった。

正直23話と24話で、坂木しずかの声優としての演技を聞いて宮森あおいと安原絵麻が涙するシーンはこちらまで泣いてしまいそうだった。

エンディングまでの苦労を視聴者が追体験してきたからこそのカタルシスであり、24話まで積み上げてきた物語が主人公たちの夢を通して昇華されるという最後は素晴らしい。

特に坂木しずかの声優としての出番は「ここでそう来るのか」という驚きがあったし、その後の宮森あおいの涙は本作で屈指の名シーンであると思う。

しかもそういったカタルシスはメインの5人だけで得たものではなく、アニメ制作に携わった多くの人々の頑張りと努力があってこそというところを描いているのも感動できる重要な要素となっている。

カタルシスというと「強くなって悪を打ち倒す」「自分の命を賭して世界を救う」「ヒロインの死を乗り越えて前へ進む」などという壮大な物語を思い浮かべてしまうが、こういった誰も死なない、いわゆる「人間ドラマ」「働く系」的作品でここまでのカタルシスが得られるというのは驚きだった。

もちろん、主人公たちはまだ夢へ向かって第一歩を自信を持って踏み出したところなので「自分たち5人のアニメを作る」という目標は完全には達成していないが、希望を持って夢に向かって羽ばたいていく終わり方はとても気持ちがよかった。

全ての人に通ずる物語

本作はあくまで「アニメ制作の現場を描いたアニメ作品」ではあるが、根底にあるのは「夢を追いかける気持ち」「なぜこの仕事をしているのか」「大勢の人たちが携わって一つの作品が作られる」というメッセージであり、アニメ業界を描いたからこそ成り立つ物語とは言え、そこから発信されるメッセージはアニメ業界に限ったことじゃない。

イラストレーターも小説家も漫画家も、あるいは一般的な会社員であったとしても、建築業者だったとしても多くの人が一緒になって何かを作っているということには変わりない。

偉そうなことを言えばこのブログだって多くの人が携わっているわけではないが、ある種、文章を創造する分野かもしれない。

何かを作る、何かを生むということはとても大変なことだと誰もがわかっているからこそ、本作の登場人物たちの葛藤や悩み・先の見えない不安といったことをダイレクトに観客は感じ取ることが出来るんじゃないかと思う。

クリエイターという大層な肩書きがなくても本作で描かれる描写はとても心に刺さる物があって、それは大げさに言えば全ての人が共感できることだと言える。

アニメ制作やアニメ業界に興味がなくても本作「SHIROBAKO」は是非多くの人に見てもらいたい作品だ。

色々と御託を並べたが、単純に僕のように「キャラが可愛いから」という動機で見始めても刺さる人には刺さるアニメだ。

24話2クールという割と長めのアニメ作品ではあるが、前述のようにテンポも良いしキャラクターも魅力的なので動機がなんであれ、アニメに抵抗がない人は一度見てほしいと切に願う。