ATRI – My Dear Moments – 体験版インプレッション

ATRI © Aniplex Inc

「Aniplex.exe」及び「Front Wing」・「枕」制作の全年齢向けPCノベルゲーム「ATRI(アトリ) - My Dear Moments -」の無料体験版をプレイしたのでファーストインプレッションを述べておこう。

なお、本作はWindows専用のゲームであり、当然体験版もWindows専用だが管理人はMac mini 2018 + eGPUの環境においてParallels Desktop 15上のWindows 10でプレイした。

また、本体験版のプレイ時間はおよそ3〜4時間であり、体験版としてはかなり長い部類に入る。

ATRIの概要

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ATRIは前述したようにPCノベルゲーム(美少女ゲーム)に分類されるジャンルだがエロゲ(18禁)ではなく、2020年6月発売予定の全年齢向けの作品である。

開発はAniplex.exe及びFront Wing・枕であり、Front Wingの代表作としてはテレビアニメ化もされた「グリザイアシリーズ」や「ISLAND」などがある。

また、本作の企画・シナリオは2012年PULLTOP制作の18禁ノベルゲーム「この大空に、翼をひろげて」で有名な紺野アスタ氏である。

プラットホームはWindowsのみであるが、内容は変わらないもののSteam版とDMM Games版の二つが存在し、共に価格は2,000円(税別)。

なお、本作はデジタル版のみでありパッケージ版の販売予定はない。

あらすじ

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具体的な年代は示されていないが、舞台は近未来の日本。

原因不明の海面上昇により世界各地の沿岸部の街や都市は海に沈み、文明は衰退、人口も激減している中、人々は残された土地で細々とした生活を送っている。

そんな時、数年ぶりに今は亡き祖母と暮らしていた田舎町に戻ってきた主人公「斑鳩夏生(いかるがなつき)」は祖母の残した借金を返済するために海に沈んだ祖母の倉庫を潜水艇でサルベージした際、「ATRI(アトリ)」と名乗る少女の姿をしたヒューマノイド(ロボット)を発見する。

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文明が衰退した作中の世界では所謂オーバーテクノロジーとも呼べるほど珍しい存在である「アトリ」と、主人公を取り巻く人々との交流を描きながら、祖母が「アトリ」という存在を残した意味、ひいては世界の秘密について迫っていく物語だ。

いわゆる「SF」に該当する本作であるが、SF色はそこまで強くはなく、少なくとも体験版においてはアトリとの交流や、斜に構えていた主人公が学校の仲間達と打ち解けていく様子を描くに留まっていた。

ちなみに「ATRI(アトリ)」とはインド神話でリシ(聖者・賢者)のことを指すが体験版では関連性などは一切見られない。

片足を失った主人公「斑鳩夏生」

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本作の主人公である「斑鳩夏生」であるが、夏生は過去にトンネル崩落事故によって母親、そして自身の右足をも失い、義足を使用している。

このような作品のメイン登場人物が障碍を持つという要素は同じく紺野アスタ氏がシナリオを担当した「この大空に、翼をひろげて」にも存在した。

体験版では主人公が義足を使用しているという特徴が活かされた描写や展開はそれほどなかったが、本作はSFであり、体験版においても「海面上昇の原因」や「祖母のやろうとしたこと(地球を救うという意味深な言葉)」などを鑑みると、片足を失った主人公という特徴も本編では活きてくるのかもしれない。

ロボットとは思えない「ATRI(アトリ)」

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この作品のタイトルにもなっている少女の姿をしたヒューマノイド「アトリ」であるが、ロボットであるという設定ではあるものの作中での振る舞いはほぼ人間の少女そのままであり「人間の感情を理解できないロボットとの交流」という定番の展開はそれほどない。

もちろん、人間のように泣くことができないことに困惑する姿や、人間とロボットとの違いをアトリが意識するような場面は存在するが「ロボットに無理解な人間」「人間に無理解なロボット」という構図は作中では描かれていない。

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作中の主人公の回想や主人公の祖母の発言を考えると「アトリ」は重要な存在であり、更に作中の世界の状況の鍵を握る存在であることは確かであるようだが、ロボットであるという設定はそれほど重要視されていない印象を受けた。

いずれにしろアトリはキャラクターデザインやその性格・言動・振る舞いも虚をついた点はないため、SFやロボットキャラに馴染みがないプレイヤーであっても違和感を抱くことはないだろう。

必要最低限・個性豊かなキャラクター

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本作ではもちろん複数のヒロイン的ポジションとなる少女や登場人物も出てくるが、この手のゲームとしてはサブキャラクターはそれほど多くはない。

本作は価格が2,000円という、PCノベルゲームとしては同人並の破格であるため、場合によっては攻略可能なヒロインはアトリのみの可能性もあるが、登場人物の少なさは本作ではプラスに働いていると思う。

本作の体験版で登場する女性キャラクターはアトリを除くと通称「キャサリン」という大人が1人、主人公やアトリと同年代のサブヒロイン的なキャラクター「神白水菜萌(かみしろみなも)」が1人、小学5年生の少女「名波凜々花(ななみりりか)」が1人の計3人。

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男性キャラクターにおいては主人公の気の合う友達ポジションと呼べる同級生男子「野島竜司(のじまりゅうじ)」が1人であり、Front Wingの過去作のように多数の少年少女キャラクターが登場するわけではない。

このような登場人物の少なさは、その分それぞれのキャラクターの掘り下げが可能になるため一人一人のキャラクターの個性が立っており、プレイヤーの記憶に残りやすい上、本作にはプレイヤーを苛立たせるような人物もいない。

主人公は過去の経験から斜に構えているが、その他はまず嫌いになるプレイヤーはいないだろうというくらい優しいキャラクターがほとんどである。

体験版では少なくとも終始和気藹々とした雰囲気で物語が進むため「文明が衰退し滅びに向かいつつある人類」という設定を感じさせないほど明るいムードが漂っている。

「この大空に、翼をひろげて」に通ずる「何かを作る」という主軸

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体験版では電気が途絶している町で主人公達は自分達の手で発電機を作り、学校に明かりを灯らせるというように「この大空に、翼をひろげて」に非常によく似ている「互いに助け合いながら何かを作る」という点を軸にして話が進んでいく。

「何かを作る」という点を軸にして物語を固めていく構成は紺野アスタ氏の特色がよく出ている点だと感じた。

また、「電気を作るには何が必要か」「自分たちのような子供が何をできるか」という点について主人公達が試行錯誤と葛藤を繰り返す様子が丁寧に描かれているのも好感触だった。

「この大空に、翼をひろげて」で描かれたような「仲間達で何かを作り目標を達成する」という展開が好きな人は本作も間違いなく好きになるだろうと思わせるくらい両者は似ている。

世界の秘密・地球を救うという壮大な目的は果たされるのか?

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冒頭でも書いたように「この大空に、翼をひろげて」と多くの共通点がある本作ではあるが、本作が「この大空に、翼ををひろげて」と大きく違う点は本作では文明が衰退し世界は滅びゆく最中にあるという点だ。

「アトリ」という存在及び回想の中の主人公の祖母の発言を考えると本作は「この大空に、翼をひろげて」より壮大な物語であると言える。

果たして「アトリ」とこの世界の秘密がどのようにリンクしているのか、体験版をプレイしただけでも着地点が楽しみになるストーリーであると思う。

本作が主人公達の青春を描きながら、同時にSF的要素を絡めた上で壮大な物語を上手くまとめることができるのならば価格が2,000円という破格のノベルゲームとしては過去に例を見ない名作になるのではないかという予感がする。

総評 雰囲気やCGも美しく、キャラクターも個性豊かで楽しみな海洋SF

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総評として本作は体験版だけプレイしてみても本編が2,000円とは思えない完成度であり、作中の雰囲気やCG、個性豊かなキャラクター、先が気になるストーリーという点で非常に期待できる作品だ。

僕は本作のような所謂「海洋SF」が好きであり、Front Wingの過去作である「ISLAND」もお気に入り作品の一つなので是非本編でもこの「緩やかに滅びつつある世界の心地よさ」を維持してくれることを願う。

ゲームではないが本作は「海に沈みゆく陸地」「温かい雰囲気でありながら滅んでゆく世界」という点で、どこか「ヨコハマ買い出し紀行」というマンガを彷彿とさせる。

「緩慢な世界の滅亡」という雰囲気にピンと来る人なら本作も気に入ると思うのでそういった人には是非体験版をプレイしてもらいたい。

2020年5月23日の時点でまだ具体的な発売日はアナウンスされていないが、2020年6月の発売が楽しみである。